2020.02.12 ブランドの哲学から学ぶ「長く付き合う」生き方─スタイルを持つことを考える

モノと情報にあふれた現代社会は間違いなく「豊か」だろう。それでもなぜか、物足りなさを感じてしまう──そんな人もなかにはいるかもしれない。

そこで、スタイルと哲学を持つブランドの代表者が集まり、トークイベント「Product is a way of life ― 長く付き合う」を開催。物事をただ無為に消費するのではなく、「長く付き合う生き方」とはどういうことなのかを語り合った。

スピーディーに過ぎゆく日々のなか、自分らしいスタイルや価値観を持って生きるには、一体どうすれば良いのだろうか。そのヒントが彼らの哲学のなかにあった。

 

モノ作りに生きる4人の哲学

1月25日、土曜日の昼下がり。渋谷駅から少し歩いた場所に位置する、株式会社フラクタのスタジオ(https://fracta.co.jp/press_office_space190322/)で今回のイベントは開催された。

この日集まったのは、アパレルブランドの「ALLYOURS(オールユアーズ)」、スーツやシャツをオーダーメイドできる「FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)」、新しい結婚式のかたちを提案する「iwaigami(イワイガミ)」、そしてクラフト日本茶ブランドの「美濃加茂茶舗(ミノカモチャホ)」だ。

1時間ほどブースを見て回るうちに、ゆったりとした雰囲気のなか、ブランドを代表する4人によるトークセッションが始まった。

アパレルに飲食、ウェディングという別々のフィールドにいながら、スタイルを軸に持ってモノづくりをする彼らの掛け合いは興味深い。

「モノと長く付き合う」生き方をテーマに据えて4人が語った言葉からは、熟考して編み出された「哲学」がにじみ出る。約1時間半に及ぶトークで明かされた、彼らのスタイルを育んだ価値観を紹介しよう。

 

 

長く付き合うという考えに至った原体験─ALL YOURS (https://allyours.jp// 木村昌史さん

トレンドを気にせず楽しむことができ、着ていることを忘れるほど心地良い。そんな、一切ストレスにならない服をALL YOURSは作っている。

多くのメーカーが「購入してもらうまで」を重要視している反面、ALL YOURSのサービスは「買ってもらってからがはじまり」なのが特徴のひとつだ。経年変化しても着られるモノ作りを徹底し、商品に不具合が生じれば対応するなどして「長く付き合ってもらうのが狙い」だという。

さらに、お客さんは「一緒にブランドを育ててくれる仲間だと思っている」と、木村さんは続ける。たとえばジーンズのプロモーションをする際には、お客さんが履いたことで経年変化したものを借りて撮影するそうだ。「あまりにかっこよく変化しているので、ぜひ新品と交換させてほしいとお願いすることもあるんです。嬉しいことに、断られちゃいますけどね」とのこと。

そしてこの日、木村さんは1950年代に生産されたというお気に入りのジーンズ「LEVIS 501」を持参していた。ブランドの独特なスタンスやアイデアの源泉は、この「古着」だという。

そもそもジーンズが生まれたのは約150年前、アメリカ・サンフランシスコで起きたゴールドラッシュがきっかけ。炭鉱で働いていた男性たちの妻が、「夫のパンツがすぐ破けるので、どうにか丈夫にできないか」とテーラーに相談したことから生まれたのだ。

「これってすごく民主的ですよね。課題解決のために作られた商品が、100年経った今も履かれているなんて、すごいことだと思うんです」

リペアしながら長く使える普遍性。本当に使い続けたいと思える機能性。そんな魅力にあふれた70年前の古着から、木村さんは「長く付き合う」ことの極意を学んでいた。

 

自分らしさにフィットする─FABRIC TOKYO(https://fabric-tokyo.com/ / 峯村昇吾さん

働く男性のなかには、オーダーメイドのスーツを作る人も多いだろう。自分の体型にぴったりフィットするスーツは着ていて心地良いものだ。そんななか、FABRIC TOKYOは「Fit Your Life」をコンセプトに、他とは一線を画するスーツ作りをおこなっている。サイズは当然のこと、「ライフスタイルや価値観にまでフィットする」スーツを丁寧に作っているのだ。

たとえば、環境問題を気にする人ならオーガニック素材のみで作ったスーツを。クラフトマンシップを大切にするなら、経年変化が楽しめるスーツを──FABRIC TOKYOでは「どんな生き方をしたいか」を自身に問いかけ、オンリーワンのスタイルを見つけながらスーツ作りが楽しめる。

かのココ・シャネルが「私は流行をつくっているのではない。スタイルをつくっている」と語った。そんな彼女の言葉を引用し、「自分のスタイルにアジャストすることが、服と長く付き合っていくうえで重要だと思うんです」と峯村さん。

「だからこそ、トレンドに左右されない“自分だけのスタイル”を作る体験を、スーツを通して提供したいと考えています」

そう語る峯村さんはかつて、商社に勤めていたという。当時は量販店に服を卸す仕事を担当していたが、ときに「ワンポイントの刺繍が5mmずれているから、数万着を廃棄処分」というような事態を目の当たりにした。

さらに、ファストファッションが流行りはじめてからは服の供給量と消費量が共に倍増した。反比例するように、人が一着の服を使い続ける時間が半減しているのが現実だ。そんなファッション産業を見ているうちに、峯村さんは「服と長く付き合うとはどういうことなのか」を考えるようになったという。

「自分に似合っていて、色やデザインもぴったり自分好み……そんな一着と出会うのは奇跡的なことです。そういったものに出会えないから、人はなんとなくモノを買っても思い入れが持てず、どんどん捨ててしまうのでしょう」

そして「見た目は中身の一番外側って言いますもんね」と峯村さん。素材や色、形、コンセプト、すべてをあわせて自分にぴったりハマる「スタイル」を見つけることが、服と長い付き合いをするコツなのかもしれない。

 

現代の暮らしになじむ日本茶の楽しみ方─美濃加茂茶舗(https://mchaho.com/ / 伊藤尚哉さん
奥さまがお茶の専門店で働いていたことをきっかけに、日本茶の業界に足を踏み入れたという伊藤さん。美濃加茂茶舗は、そんな彼が2019年に2月に立ち上げたブランドだ。オンラインを中心に、岐阜県東白川村で栽培された良質な茶葉や美濃焼の器を販売しつつ、イベントに参加しては1対1でお茶を振る舞う機会をつくっている。

多くの人が日本茶を飲むとホッとするだろう。もはやDNAレベルで日本人に馴染んでいる飲み物だ。そうである一方、お茶は好きだけどペットボトルのものばかり買っている、という人が今はほとんどではないだろうか。

実は、ペットボトル飲料に使われている茶葉は「二番茶」や「三番茶」と呼ばれるものがほとんどで、もっとも上質で価値の高い「新茶(一番茶)」は使われていない。いずれも栽培するうえでかかる手間やコストは変わらないが、安い茶葉ばかり売れているのが現状だ。

そのため、「ペットボトルのお茶は多くの人から必要とされている商品だけど、同時に、一番茶が売れる仕組みも育てることは大切」と伊藤さん。茶葉の作り手としては「新茶(一番茶)」も売れないと利益を得られないため、持続可能な生産がどんどん難しくなっているのだ。

そんな業界の実情を鑑みて、美濃加茂茶舗は、上質な茶葉を使ったオリジナルブレンドを販売している。生活のテンポが速い現代社会には急須がミスマッチしていることも踏まえ、たとえば0°〜100°のどの温度で淹れても楽しめる煎茶を茶師と共に共同開発しているのもポイントだ。

「長く付き合う」というテーマにおいて、伊藤さんは「繰り返すこと」を楽しむ豊かさを語った。「たとえばお茶を毎日同じ温度で、同じ時間に淹れていても、味が違うんです」とのこと。目まぐるしい日々のなか、丁寧に淹れた一杯のお茶が体と心のバロメーターになっているのだ。

たった一杯、どうすればおいしいお茶が淹れられるだろう。「忙しいからそんなことを考える時間はない」と無下にするのでなく、自分と、お茶と向き合う時間を、人生を通して作り続ける。これほど贅沢で豊かな生き方はないはずだ。

 

無理をしない結婚生活─iwaigami(https://iwaigami.jp/ / 吉岡芳明さん

適齢期になればパートナーを見つけ、大勢に祝われながら結婚式を挙げる──これがひと昔前までは常識だった。しかし今、多くの人にとって、結婚は人生において数ある選択肢のひとつに過ぎない。なかには事実婚を選ぶ人もいるし、そもそもパートナーの性別にこだわる必要もなくなりつつある。

そんななか、ひとつ意外な事実がある。吉岡さんいわく「毎年約60万組が結婚していて、その数は減ってないんです。ただ、結婚式をしなくなっているだけ」なのだという。

結婚はするけど、結婚式はしない。そこには金銭的な理由もあれば、招待客の多い派手な結婚式がしたくないから、というものもある。そんな現代の価値観に寄り添う結婚式を提案するのが、iwaigamiだ。

iwaigamiの結婚式を選ぶと、ひとつの桐箱が手元にやってくる。結婚を誓うための指輪と小冊(本)、そして指輪を置く台が中に入っていて、これさえあれば公園のベンチや海辺でも結婚式が挙げられる仕組みだ。形式には一切囚われず、場所から服装まで何もかも「2人のスタイル」を徹底できる。

そんなまったく新しく、そして現代の価値観にあった結婚式のあり方を作った吉岡さんの思う「長く付き合う」とは、どのようなものなのだろうか。

「そもそもなぜ『長く付き合う』ことが大事なのかと考えたとき、それは今の時代において実践しづらく、特別でかっこいいとされる価値観だからなのかなと思うんです。そして『続ける』ことには多少の無理をともなうけれど、得るものがある。僕自身、妻と長い付き合いをしたからこそ理解できたことがあると感じていますね」

実は吉岡さん、毎年大晦日が近づくと夫婦喧嘩をするという。その喧嘩はかれこれ6年間、毎年恒例の出来事になっているそうだ。そんななかで気づいたのが、夫婦にはどうしても「わかりあえないことがある」ということだった。どこまでいっても夫婦は他人で、そして他人のあいだには必ず溝がある。だからこそ、相手のことを「一番大切な他人」として、適切な距離感を保つことが重要なのだという。

「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」──これはブライダル媒体『ゼクシィ』のキャッチコピーだ。「まさに現代の結婚のあり方を体現した言葉ですよね」と吉岡さん。

「選択肢のひとつとして結婚を選び、自分にはわからない価値観があること知り、溝を認める。無理をしない結婚生活などないと思いますが、無理して溝を埋めようとはしない。これが、現代の夫婦が長く付き合っていくうえでポイントになるのかもしれません」

 

 

自分なりの「長く付き合う」を見つけること

トークセッションを聞き、改めて各ブランドのプロダクトを見て回った。世の中にはモノが大量にあるが、その背景や知ると、途端に見え方が変わることに驚くものだ。そして大切に作られたプロダクトを前に、多くの人が物事に執着せず、簡単に捨ててしまう理由に思いを馳せる。それはきっと、あらゆるモノが「飽和状態」にあるからなのだろう。

「モノと情報であふれかえる時代だから、自分のスタイルにあったモノや生き方にこだわること」。一見アナログに思える4つのブランドが示す哲学は、ある意味「これからの生き方」の道標だ。自分なりの「長く付き合う」を知ることは、たったひとつの、自分なりの「スタイル」を築き上げることにも繋がる。

日々着る服、ブレイクタイムに口にするもの、そして人生の節目の迎え方……些細なことにも丁寧に向き合うことはきっと、怒涛のように変化を続ける社会のなか、濃く深く生きる術なのだ。

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